講師:
小佐野 重利(東京大学名誉教授、同大特任教授)
木村 太郎(大阪芸術大学非常勤講師)
前田 恭二(読売新聞東京本社編集局次長兼文化部長)
8月10日(土)、カラヴァッジョ展が北海道立近代美術館でのオープンを皮切りに、名古屋市立美術館、あべのハルカス美術館と来年2月16日まで巡回します。本邦初公開のカラヴァッジョの名作を含む真筆10点余とともに、画家のオリジナルからのコピーやレプリカも展示されます。たとえば、《聖トマスの不信》は、ポツダムのサンスーシ宮殿絵画館所蔵作品がオリジナルだとされていますが、17世紀に作られたコピーのうち22点が現存し、ほかに記録に残るが失われたコピーが14点近く跡づけられています。同展にはそのうちで最も忠実で優れたコピー(ウフィツィ美術館所蔵)が展示されます。最初の所有者は、トスカナ大公国のカルロ・デ・メディチ枢機卿であり、カラヴァッジョ死後の、1615年以降にローマで入手した作品です。
折しも、2017年にウフィツィ美術館研究叢書の32として、フィレンツェで刊行された研究書の翻訳『オリジナルとコピー、16世紀および17世紀における複製画の変遷』(三元社)が、この度刊行されました。ウフィツィ美術館をはじめとするフィレンツェの諸美術館には、世界的に有名な画家や彫刻家たちの傑作が数多く所蔵展示されているため、同書が扱うコピーに興味を持つことはあまりありませんでした。フィレンツェ美術の傑作を見慣れた方々に、芸術都市フィレンツェの栄光ある美術の歴史において照明が当てられなかった一面を紹介します。
カラヴァッジョがローマで活動した1600年前後の時期は、イタリアで美術市場が活況を呈し、オリジナルやコピー、時にはフェイク(偽物)までがさかんに売買され、高位聖職者や王侯貴族や裕福な銀行家のコレクションに収まりました。カラヴァッジョの絵画は異例なほどに評判となり、そうした収集家貴顕のために、多くのレプリカやコピーが作られたのです。
本講演会では、カラヴァッジョの活動に焦点をあてつつ、オリジナルとコピーの制作、売買、収集について、話題提供と討論を行います。
(日本語のみ)
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お問い合せ:eventi.iictokyo@esteri.it
小佐野 重利 Osano Shigetoshi
東京大学名誉教授、同大特任教授。1951年、山梨県生まれ。イタリア連帯の星騎士・騎士勲位章(2003)およびイタリア星騎士・コメンダトーレ勲位章(2009)受章。国際美術史学会(CIHA)前副会長、アッカデミア・アンブロジャーナ(ミラノ)会員、日本学術会議(第一部)会員。近著に『《伊東マンショの肖像》の謎に迫る―1585年のヴェネツィア』(三元社、2017年)、Originali e copie. Fortuna delle repliche fra Cinque e Seicento, a cura di S. Osano(Firenze, 2017),“The Newly Discovered Portrait of Ito Mansio by Domenico Tintoretto: Further Insight into the Mystery of its Making” (in artibus et historiae,77, 2018)など、著作や展覧会監修多数。
木村 太郎 Kimura Taro
大阪芸術大学非常勤講師。同大より学位博士(芸術文化学)取得。1978年、北海道生まれ。大阪芸術大学大学院助手、立命館大学文学部非常勤講師を経て、2012年よりイタリア政府給費留学生としてピサ大学美術史学科に留学。近著に、『カラヴァッジョを読む-二点の通称《洗礼者聖ヨハネ》の主題をめぐって』(三元社、2017年)、 “Analisi iconografica del “San Giovanni Battista nel deserto” del Caravaggio della Galleria Borghese di Roma” (in artibus et historiae, 72, 2015)など、カラヴァッジョに関する論文多数。
前田 恭二 Maeda Kyoji
読売新聞東京本社編集局次長兼文化部長。1964年、山口県生まれ。1987年、東京大学文学部美術史学科卒。同年、読売新聞社に入社。著書に『やさしく読み解く日本絵画―雪舟から広重まで』(新潮社、2003年)、『絵のように 明治文学と美術』(白水社、2014年)。後者で2015年、芸術選奨文部科学大臣新人賞。